エッセイ

秋川雅史の彫刻鑑定 その1

2021年10月19日

 

私が保有している木彫刻作品を巡って、鑑定の意見が分かれた。
それはあの有名なテレビ番組“なんでも鑑定団”の鑑定士 大熊敏之氏と、私を含めこの作品に関わった鑑定士の意見である。
その作品とは、明治から昭和初期にかけて、日本の彫刻界に一大変革が起きた時代を代表する彫刻家 石川光明の“野猪”という作品である。
今回はこの作品が真作であるのか、はたしてそうではないのかという検証を自分なりの調査で行ってみたいと思う。
 
まずは美術品の鑑定についての基礎知識から説明をしたいと思う。
そもそも作家がすでに亡くなっている作品を鑑定をするというのは、作家本人に作ったかどうかを確認をする事は出来ないために、それなりな知識を持った人が、いろいろなデータをもとに鑑定をする。
例えばレオナルドダヴィンチのように世界的にも歴史的にも偉大な作家の作品となると、それが市場に出てきた時には何百億円という高額がついたりするため、その鑑定方法も長期にわたって科学的見地から莫大な予算を投じて行っていく。最新鋭の機器を使って顔料を調べたり、また彼は左利きだったという事実から、筆筋を調べどちらの手で筆を持って描いたのかなど、いろいろな角度から研究をする。
しかし日本でのみしか流通のない作家の作品だと、鑑定家によってはパッと見た第一印象だけで判定する事もある。
また作家によって公式な鑑定機関や鑑定家が存在する作品もあれぼ、公定鑑定の機関が存在しないがゆえに、本物かどうかは誰も断定出来ない作家もいる。
公定鑑定人というのは大体はその作家の遺族であり、公定鑑定機関というと、その遺族からその権利を委託された団体(東京美術倶楽部などが有名)である。
しかし遺族が鑑定するとなると、その作家の孫やひ孫が絵画や彫刻に対して精通しているとは限らない。
意外と私が見ても、公定鑑定家の遺族の鑑定書付きの作品が「これが本物?」と思う事もある。
しかしその場合は公には本物と断定出来るのである。
鑑定とは誰が鑑定をするか、いつの時代に鑑定されているかによってその結果は異なる。
つい数十年前、雪舟の真作と判定された絵画は日本に1000点以上も存在していた。しかし今では鑑定の方法が違うがゆえに、雪舟の真作は数十点しかないという。
このように鑑定する人によって意見がさまざまに分かれるのが鑑定なのだ。
結局は、鑑定家が「◯◯の作品で間違いない!」と断定する事は、それ自体間違いだという事だ。
正しく言うなら「◯◯の作品だと私は思う」というのが鑑定家の正しい答え方なのかもしれない。

 


 

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