エッセイ

二科展4年目の挑戦

2024年09月04日

 

「木彫ヘラクレスオオカブトとギラファノコギリクワガタ」
 
昨年二科展に応募するために制作した「木彫蛙と蛇」が完成してから、私はすぐに次の二科展に向けての構想に入った。二科展に応募するための作品を作るのに最も苦労するのは、作品の題材を考える事である。
初年度入選の「木彫楠公像」と翌年の「木彫龍図」のように、完成予定も出品や納期の予定もない中、ただひたすらに理想とする造形を作り上げたものとは違い、毎年二科展に応募し続けるには、完成までに一年で仕上げる必要がある。他にも並行して制作している作品もあるので、そちらに割く時間も考えて期限までに完成する作品を考えなければならないのである。私は工房を構えて大きな作品を作ることをメインとしておらず、一人で自宅で黙々と彫っていくスタイルなので、応募展に出品する作品としては小ぶりな作品を作っている。
 
二科展では一昨年から新たに[カテゴリー30]という高さ×幅×奥行きがそれぞれ30cm以内の小作品の応募枠が設けられており、それはまさに私向きの応募枠であった。実は昨年の制作作品(木彫蛙と蛇)は、当初この特別小型作品枠で出品しようと思い作ったのだが、完成してから応募要項を見ると、それぞれが30cm以内との表記があり、それを見落とした事で、私の小さな作品が他の数々の大型の作品の中に飾られることとなってしまったのである(笑)。そして今回の作品はそのサイズを考慮に入れながらテーマを考えた。
 
昨年の作品はふと思いついた蛙と蛇の対決を彫ってみたが、これがとても面白くやり甲斐のある作品であったため、「対決」をテーマに何か作品を作れないか考えてみることにした。生き物を写実的に彫る時に、作品として映える生き物と映えない生き物がいる。昨年の作品に関しては、よく彫刻作品の題材として扱われるアマガエルを彫った事で、趣のある作品になったと思っている。
蛙と蛇の対決は、圧倒的に蛇が有利な戦いである。蛇に睨まれた蛙は絶対に勝つことのない戦いであるが、実は狩の成功率は100%ではない。アマガエルは相手をギリギリまで引きつけておいて、最後の瞬間に左右のどちらかに逃げるのだ。蛇が捕える事が出来るか、もしくはアマガエルが逃げる事が出来るかの戦いであった。
そして今回は、どっちが強いのかという最強決定バトルを描いてみようと思った。
カブトムシとクワガタムシが戦ったらどちらが強いのかというテーマは、多くの子供にとっての永遠の興味の対象であろう。百獣の王と言われるライオンも、虎と対決したらどっちが強いのだろう。またクマとゴリラはもし戦ったらどっちが強いのだろう、というのと似ているかもしれない。
 
私は現在ヘラクレスオオカブトをブリードしている。もう10年以上飼っているのでフォルムは知り尽くしている。ヘラクレスオオカブトはキング・オブ・インセクトと言われており、最強の昆虫と言われているが、その「最強」は強さだけでなく、尖ったツノのフォルムや、流線型の美しさも意味していると私は思っている。
一方で最強のクワガタはパラワンヒタラクワガタと言われている。しかし今回はヘラクレスオオカブト対パラワンヒラタクワガタという最強対決ではなく、世界一長さのあるカブトと世界一長さのあるクワガタの対決にしてみた。そこは芸術的バランスを考えセレクトした。
ヘラクレスは胸角と頭角で相手を挟んで投げ飛ばして攻撃するのに対しクワガタはハサミの部分の大アゴで強力な力で敵を締め潰す攻撃スタイルである。しかしギラファノコギリクワガタは、その長い大アゴで相手を接近させず押し出す事がある。ヘラクレスの長い胸角を大アゴで止めて攻撃をさせない。相撲で言う突っ張りのような形で相手を押し出す攻撃である。
そもそもこの2匹の昆虫は生息地域も違い、本来自然界で対決する事は絶対にない。特徴も異なる者同士が自分の特徴を活かして戦う、まさに“異種格闘技”である。
さて、一生戦うことない両者が戦うと、いったいどちらが勝者になるのだろうか。結果は見る人の想像にお任せしたい。
 
今回の作品のタイトルを付ける際に、これまでの3年間のタイトルを考えると、「木彫◯◯」とするのが妥当であるが両方の名前がとにかく長い。正式な名前が長いので、カブトムシ&クワガタの愛好家は“ヘラクレス“とか“ギラファ”のように略して会話をする。題名を少しでも短くするために「木彫ヘラクレスとギラファ」にしようかとも思ったが、私も昆虫愛好家として、少しでもこの迫力ある昆虫の正式名称を覚えてもらうためにも少し長いタイトルにする事にした。
 
「木彫ヘラクレスオオカブトとギラファノコギリクワガタ」
会話の中で毎回これを言うのはさすがに大変なので… 共通認識で「ヘラクレスとギラファ」もしくは「ヘラクレス」でどうぞ。


 


 

- 最新記事 -