エッセイ

二科展6年目の挑戦「木彫カブトムシとオオクワガタ」

2026年09月02日

 

対決シリーズ 第4作
 
私は10年以上にわたり、外国産のカブトムシやクワガタムシを飼育してきた。
ヘラクレスオオカブト、ギラファノコギリクワガタ、アクティオンゾウカブト、スマトラヒラタクワガタ──。
数多くの種類を飼育し、その美しさや力強さ、そして種ごとの個性的なフォルムを観察してきた。
その経験を生かし、3年前から「対決シリーズ」と題して、写実的な木彫作品に取り組んでいる。
一昨年は、昆虫の王者・ヘラクレスオオカブトと、世界一長く美しいとも言われるギラファノコギリクワガタを対決させた。
続く作品では、圧倒的な重量感を誇るアクティオンゾウカブトと、太く力強いスマトラヒラタクワガタを切り株の上でぶつけた。
私がこのシリーズで描きたいのは、「どちらが強いか」だけではない。
強さと美しさ。
その両方が同時に存在する瞬間である。
子どもの頃、
「ライオンとトラが戦ったら、どちらが勝つのだろう」
そんな想像を誰もが一度はしたことがあるのではないだろうか。
現実には決して出会わない生き物同士だからこそ、人はそこにロマンを感じる。
このシリーズは、そんな少年時代の想像を形にした作品でもある。
 
今回の作品で選んだのは、外国産ではなく、日本を代表する昆虫同士。
国産カブトムシとオオクワガタである。
実は、これまで数多くの外国産昆虫を彫ってきたにもかかわらず、一番身近なこの2種類をまだ作品にしていなかった。
「これは彫らなければいけない。」
そう思った。
オオクワガタは飼育経験もあり、標本も残っていた。
しかし冬だったため、モデルとなるカブトムシが手に入らない。
そこで思い出したのが、昨年から私が昆虫サポーターを務めている福島県田村市だった。
田村市は全国有数のカブトムシの里として知られている。
市長に相談したところ、すぐに専門家へ連絡を取ってくださり、貴重な全長80ミリを超えるカブトムシを送っていただいた。
 
私はその個体を自宅で飼育しながら毎日観察し、さらにクヌギの木肌まで研究して制作に取りかかった。
今回のモデルは、まさに田村市のカブトムシである。
 
作品では、止まり木をあえて装飾のない一本の丸太にした。
主役はあくまでも二匹の昆虫。
余計なものを置かず、その造形美だけが際立つ構図を目指した。
オオクワガタは、上から見た大アゴが最も美しい昆虫である。
一方、カブトムシはどの角度から見ても立体的な魅力がある。
そこで、オオクワガタは側面から威嚇する姿勢に、カブトムシは真正面からそれを受け止める姿にした。
これまでの対決シリーズでは、両者はすでに激しくぶつかり合っていた。
しかし今回は違う。
まだ触れていない。
互いに一定の距離を保ちながら、相手を見据えている。
まさに一触即発。
人間で言えば、互いに「メンチを切っている」瞬間である。
次の一瞬で何が起こるのか。
その緊張感こそ、この作品で最も表現したかったものである。
 
最後に一つ。
もし夏に福島県を訪れる機会があれば、ぜひ田村市へ足を運んでほしい。
カブトムシの里として知られるだけでなく、日本を代表する鍾乳洞「あぶくま洞」もある。
実は私自身、昆虫サポーターになる以前から、この鍾乳洞を目当てに訪れていた。
昆虫好きの方も、自然が好きな方も、きっと楽しめる町である。
そして、この作品に登場するカブトムシも、その田村市で育った一匹である。

 


 

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